福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)86号 決定 1959年7月04日
抗告人 仁後春郎(仮名) 外一名
主文
原審判を取り消す。
抗告人らの氏を「小西」と変更することを許可する。
理由
本件抗告の理由は別記のとおりである。
しかして本件記録中の抗告人らの戸籍謄本と原審における抗告人らおよび被審人仁後美子、仁後恵子に対する各審問の結果を総合すると、抗告人らの氏である「仁後」は「ニゴ」と読み、他人に奇異の感じを与え、日常生活において不便であるのみならず、被告人春郎は小学校時代友達から「にごのじゆう」とからかわれ、また被告人とめや抗告人ら夫婦の長女美子(当二十四年)、二女恵子(当二十年)は他人から(にごーさん)と呼ばれるごとに二号、すなわち妾を連想させ、好奇の目を以つて見られるために屡々恥かしい思いを経験していることが認められる。
以上の事実は戸籍法第百七条第一項に所謂氏の変更についてやむを得ない事由がある場合に該当するものと認めるのが相当であつて、本件抗告は理由があるから家事審判規則第十九条第二項に則り主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)
抗告の理由
一、原審判において抗告人等の申立を却下した理由として社会生活上著しい困惑と不便を自他共に蒙るような珍奇性は全く認められず又申立人等の品位を失墜し人格を不当に傷ける虞ある氏と云うにはなお程遠いものである。
と説示されている。
二、然るに抗告人の氏「仁後」は他人に奇異の感じを与え日常生活に於て困惑と不便であることは事実で抗告人春郎はともかくとして抗告人とめや夫婦間の娘、美子、恵子は適令期であり「にごー」(二号)と呼ばれることは何よりもの侮辱、しゆう恥感を与えることは同裁判所も認めるところであります。
三、依つて抗告人は原審判に対して服しかねるので本申立に及んだ次第であります。